麻酔科での米国臨床留学を考えていた私は、卒後3年目でUSMLEを受験したものの期待
した成果が得られなかったので、臨床留学で実績のある帝京大学麻酔科の門を叩きました。
二年間帝京で充実した臨床研修を行う一方、臨床留学への準備も確実に進めることができました。このたびニューヨークにあるMaimonides Medical Center(MMC)で麻酔科研修を開始できる運びとなったので、具体的に自分の二年間を振り返ってみようと思います。臨床留学に興味のある方々の参考になれば幸いです。
留学を実現するにあたり、私が重要だと感じたファクターが3つあります。それは、努力、運、そして人との縁です。
私は熱中したことに対しては、のめりこむ性格であったこともあり、受験勉強に対する努力は惜しみませんでした。つぎに私の点数は他の優秀な諸先生方と比べると少し落ちるものでしたが、なぜか自分には運があるのではないかと思い続けていました。
そして、最終的に留学できたのは帝京の先生方を通じたご縁があったからこそ成し得たものであると確信しています。
麻酔に関しては全くの素人だった私は、入局一年目は麻酔の臨床業務に日々打ち込んでおりました。その中で目の前で2人の先輩方が渡米されたのはとても刺激的でした。
また、一学年上にいた若月信先生とは同じ米国での臨床麻酔科医を目指す仲間で、助言を頂きながら医局で切磋琢磨しておりました。
帝京では米国で麻酔科スタッフとして勤務している帝京OBの先生方にモーニングレクチャーをして頂く機会に恵まれ、この際にIndiana University(IU)で研修をされていた森田泰央先生から実際の研修生活について教えて頂き、とても刺激になりました。
また、University of Iowaでスタッフをされている帝京麻酔科OBの花田諭史先生ともお会いでき、のちにMMCのスタッフの方を紹介して頂くことになります。こういったご縁がきっかけとなり、2年目で面接のチャンスがいただけました。
二年目はいよいよ臨床留学に応募する勝負の年と決めていました。IUでスタッフとして勤務されている岡野龍介先生との出会いもあり、Program Directorと面談する機会をいただき、これは米国で働こうとする私のキャリアを再考する契機になりました。
米国の有名施設では、関係者の推薦状が予め提出されていると有利であるというのは周知の事実です。澤村成史主任教授・中田善規教授・柿沼玲史先生と、海外での臨床・研究実績が豊富な諸先生方に快く推薦状を書いていただきました。こうして応募に必要な書類集めができ、スムーズに出願することができました。心より感謝しております。
出願に関しては、『Number Game』ということを肝に命じるようにと中田善規教授より助言を頂きました。つまり、数で勝負ということで、沢山のプログラムに応募していれば、自分が呼ばれる確率が高くなるという原理です。私は200箇所前後のプログラムに応募しました。
秋にASA(American Society of Anesthesiologists)がSan Diegoで開催され、”Sugammadex Anaphylaxis”というテーマでポスター発表を行いました。発表開始時、私の予演を10回は聞いていたであろう同僚の杉木馨先生以外聴衆は皆無でしたが、やがて聴衆も増え、鋭い質問にも何とか切り返し発表は終了しました。
学会中に設置される『Meet&Greet』という場所で、顔写真入り名刺を片手に、可能な限りのプログラムに自分を売りこむことができました。実際に、私の渡した名刺が、昨年渡米されTufts Medical Center(ボストン)でResidentをされていた影本容子先生の元に届いたことがきっかけとなり、面接まで呼んでいただきました。
面接シーズンに入ると、各プログラムからメールが届き始めます。ものすごく丁寧なお断りのメールが大量に舞い込みました。この前に、中田善規教授から『100回くらい殴られるつもりでいるように』と助言を頂いていました。実際には200回近く殴られた(?)私も、『こんなものだろう』と流せるようになっていました。結局面接に呼んでいただけたのは前述のTufts Medical Center及び、MMCの二箇所のみという結果でした。前述の花田諭史先生は以前MMCでご活躍されており、その縁もあってか、終始好意的な雰囲気で面接を終えることができました。面接の中で、アメリカでの臨床経験のある金信秀先生(新東京病院 麻酔科主任部長)をご紹介頂き、今後の留学に向けて、助言を頂くことができました。
2016年3月18日が全米の”Match day”すなわちプログラム合否判定日でした。幸いにもMMCより合格の報をいただき、夢を一歩進めることができました。
繰り返しますが、臨床留学を成就させるために重要だと私が感じたのは努力、運、そして人との縁の3点です。米国臨床留学において選考過程はより厳しさを増しており、USMLEの点数がより重視されているといわれており、いわゆる人脈だけで通用するような甘い世界ではありませんでした。しかし、USMLEの点数も及第すれすれの私が採用されるにあたっては、帝京出身の先生方がこれまで米国で築きあげてきた信頼と実績が不可欠であり、とても私一人の力では難しかったと思います。
ここに至るまでに本当に多くの方々に助けて頂きました。誰一人を欠いても成し遂げることはできませんでした。
最後になりますが、この場を借りて、私を信じ、励まして下さった方々へ心からお礼申し上げたいと思います。
本当にありがとうございました。